目力極まるナースさん。
陽射し柔らかな今日この頃、北の桜が待ち遠しい季節となりました。
朝晩の冷え込みに…と書きかけて、強い貴女の事ですから何も心配に及ばないかと頬の緩む次第です。
きっと貴女は覚えていらっしゃらないでしょう。
私も目力極まる、と言っておきながらお顔を良く覚えてはおりません。
だって、もう十年近くも前の事ですから。
ただ貴女の「看護」が私の命を繋ぎ、標となったこと、今になって御礼申し上げたく一筆とりました。
勝手な思い出話を貴女のあずかり知らぬ所でさせて頂く事、どうかあの夜勤帯の一瞬のデレの如く甘く見逃して頂けると幸いです。
激務多忙の中、どうかお身体に気をつけて。
平成二十九年 三月某日
オバラさん。
「かくかくしかじか、これこれこのような事で、こんなテーマのブログを書いて欲しいんですよね。」
と山口さんから頂いたご依頼に
「合点、承知でぃす。」
と一も二もなく(しかし濃いな!キャラが!)お応えした時から書こうと決めていたこのお話。
ここまで冷麺のようなゴニュゴニュ食感のご紹介を挟んでようやく本編です。
※初回はだいぶヘヴィな話になる為、気分じゃない方はどうぞこちらの愉快なアプリへ。
『そもそも、なんで看護師になりたいの。オバラさん。』
もともとは北海道で別の道を志していたオバラさん。いくつかきっかけはあるものの、最大の転機は十九歳になりたての冬。
大学二回生への進級を控えた時期のこと。
「十九厄年、死ぬか孕むか運が良ければ嫁に行く。」
とは昔の人のよく言ったもので。
孕みもしなければ嫁にも行かない(だってビアンだもの!)オバラさん。は見事に死にかけておりました。
最初は風邪のような不快な症状。
なんだか怠いけど季節柄致し方なし、と市販の風邪薬を服用していたのです。
ややあって年の暮れに実家に帰省していたある昼のこと。
(…ドアめっちゃこっちに傾いてるし、なんか多いわ。うっわ、何枚あるの。)
お花摘みにと立ち上がった時、急に視界が歪み、洗面所の扉が迫り出して何枚にも重なって見えたのです。
(これは、まいったな。)
鏡に映る自分の姿もなんだか重なって見える。そして、歪んだ何人もの自分の像の眼に違和感が。
左眼の動きが止まり右眼だけが動いている…。
(…とりあえず、横になろう。)
そして予兆も吐き気もなく突然の嘔吐。
足取りはふらつき、強かに脛を打ち付けながら布団を敷いて横になった後、その日は泥のように眠り続けました。
その後家族に揺り起こされて身体を起こすも、やはり視界は歪んだまま。
今は何時だろう、と思い携帯を手に…とれなかった。
立ち上がろうにも何かに掴まらなければ
ふらついてしまう程、身体の自由が利かなくなっていたのです。
オバラさん。入院する。
ええ、それはもう。てきめんに入院しましたとも。
地元の町医者では話にならん、と知り合いのドクターを訪ね歩き、強き母サチコが探し出したのは控えめな身長と頭髪がチャーミングな大学病院の某先生。
『ようこそ、脳外科へ。』
と聞こえた気がした。それはそれは痛快な、脳外科病棟暮らしの幕開けでした。
次回「オバラさん。とナースさん。2」
【文末よもやま企画:オバラ飯】
アプリ投稿内に登場した「オバラさん。の夕餉」から、考えるな、感じろと言わんばかりのレシピを公開。
第四膳「100均まな板もよもや鰤を叩くことになるとは思うまい。」より
【簡単3step!ガチムチなめろう丼】
1.ついぞ終わらぬ仕事に見切りをつけて帰宅すると、肩がどうっと重くなった。
「米を、炊かなきゃ。」と呟き、滑り落ちそうな鞄の紐を正すと「鰤の刺身(もしくはサク)」を取り出して、昼間没にした資料の様に「細切れ」にした。
2.今度こそ「骨抜き」ね、我ながら骨のある方だと思っていたのだけど。
本当は「しょうが」ない事だと分かっていても「みょう(な胸騒ぎ)が」止まなかった。
彼女が悪いわけじゃない。それでも仕事が手につかないし、恨「みそ」ねみに似た感情を抱えてしまう。「おおば」か者だと笑う人があっても致し方ない。こんな労を誰が「ねぎ」らうと言うの。
「小刻み」に震える唇を噛み締めながら、それでも「あえる」のを楽しみに思ってしまう。十七歳か。
3.頬を強かに「叩いて」みても、「ごま」かしをいくら「散らし」ても。
いくらサクを「練る」として、彼女の気まぐれは推し量れない。
「丼」勘定にも程がある。
意気消沈の最中、部屋の片隅に置いた鞄の底で携帯が鳴った。
『なめろうを肴に、一杯付き合ってもらえませんか。』
…人の気持ちも、知らないで。
※この話はフィクションですが、登場人物は全てガチムチです。
すでに泣ける気配しかしない…